『近畿民俗 第１０６号』 近畿民俗学会 1986.2 より
図表４は、異名地蔵を、名づけ方から分類したものである。
| 分 類 | 異名地蔵名（個所数） | 項目数 （個所数） | |
| 願かけ方法から | 日限（3）、お試し（1）、おもかる（1）、日限延命（1） | 4（6） | |
| 尊像の姿や形から | 夫婦（1対）、おやこ（1対）、慈眼（1）、両面（1）、水子観音（3）、 | 5（5） | |
| ご利益祈願内容から | 延命（8）、子安（7）、水子（7）、厄除（3） けが除（2）、 北向延命（1）、日限延命（1）、水子観音（1）北向厄除一眼（1）、 子守（1）、北向子守（1）、出世子安子宝（1）、道開（1）、 交通安全（1）、子育（1）、浪除（1）、救世（1） | 17（39） | |
| 所在場所から | ※北向厄除一眼（1）、北向子守（1）、北向延命（1）、波除（1）、 賽の河原（1） | 5（5） | |
| その他 | 霊を受けた所から | 立江（栄）（1）、水呑（1）、 | 2（3） |
| 由来から | 波除（1） | 1（1） | |
| 家族の名前から | 清照（1） | 1（1） | |
| 仏典の語から | 六万（1） | 1（1） | |
| （不明） | ※北向厄除一眼（1） | 1（1） | |
願かけ方法から名づけられたもののうち、(10)お試し地蔵（市岡・栄法寺）、(20)おもかる地 蔵（築港・釈迦院）は、いずれも、地蔵を持ち上げた時、軽く感じれば、願がかなうという信仰 に基づく、伺い地蔵・持ち上げ地蔵などと同じ類のものである。(10)は、真言密教、(20)は、真 言宗の寺院にある。 ご利益祈願内容から名づけられたものが多く、異名の項目うちの四六％、件数にして六三％を 占める。 霊を受けた場所から名づけられたもののうち、(28)立栄地蔵（田中・夕凪）、(42)立江地蔵 （磯路）は、いずれも四国八十八カ所霊場、第十九番、徳島の立江寺の延命地蔵から霊を受けた ものである。(25)水呑地蔵（田中）は、高安山の水呑地蔵からの分霊として造立したものか、そ こからいただいてきたものかはわからない。 この地区には、波（浪）除地蔵が三体ある。(15)浪除地蔵（三先・福崎）、(18)波除地蔵（八 幡屋）、(47)波除地蔵（波除）がそれである。(15)は、高潮が来ないようにとの祈願内容から、 (18)は（写真）、浜に流れ着いた尊像を、いくら流し返しても、流れ寄ったとの由来から、(47) は、尊像を安置する地区の町名からの命名である。これら、三件について、名が一致することの 他に相互に関係はない。近辺の、此花区西九条、西区本田にも、波除地蔵はある。また、(20)日 限地蔵（築港・釈迦院）は、大正初期までは、波除（用字・筆者）地蔵であったと聞くが、由来 など詳しいことはわからない。
あと一つは、土地利用の問題である。図表１のマップに区分したように、築港、港晴、三先の 地区は、工業、運輸流通施設、供給処理施設に多く占められている。これらの地区では、地蔵を 祀る施設はあまりない。池島地区は、ほとんどが、住宅地区であるが、公営住宅を含む中高層住 宅地区であり、ここには、地蔵を祀る施設はない。中央大通、みなと通の周縁と、田中地区（夕 凪）を中心に商業地区があり、これらには六カ所地蔵堂はある。賑やかな商店街の真中に位置す るのは、(28)立栄地蔵（田中・夕凪）ぐらいのものである。これから、地蔵堂は、住宅・業務の 混在する、戦前からの狭い路地のある襞の深い町内に多くあると言えよう。 なお、磯路（一二〇）、波除（八六）、田中（八五）はいずれも、嵩上げ後の土地に地蔵堂が 築かれたものである。これらに祀られている地蔵は、嵩上げ後、建立さされたものもあるが、別 の場所から拾われてきて祀られている場合も多い。これについては、Z 由来で詳しく報告する。
